- 日本形成外科学会 認定専門医
- 日本美容外科学会(JSAPS) 正会員
- 2016年 スキンリファインクリニック吉祥寺院院長 勤務
- 2021年 東京美容外科 銀座院院長 勤務
- 2024年 GLAMRULE CLINIC 銀座院 院長

アクアフィリング(現在のロスデライン)を注入した状態で授乳期を迎えると、乳腺組織の変化に伴い、感染や充填剤の移動といった医学的リスクが高まります。 特に授乳中は乳腺が発達し、血流が増加するため、細菌感染が全身に波及する恐れがあります。
根拠のない情報に惑わされず、解剖学的な事実に基づいた判断が必要です。
アクアフィリングは親水性ゲルであり、体内の水分を利用して移動しやすい性質を持っています。 通常は乳腺の後ろ(乳腺下隙)に注入されますが、時間の経過とともに組織内へ浸潤しているケースが散見されます。
ここでは授乳期特有の解剖学的変化に基づき、具体的なリスクを解説します。
理論上、アクアフィリングが乳腺組織内に直接侵入していなければ、母乳生成のプロセスに干渉することはありません。 しかし、ゲルが乳腺組織を突き破って移動(マイグレーション)している場合、リスクはゼロと言い切れないのが現実です。
アクアフィリングが周囲の組織を圧迫・浸潤し、乳腺を守る隔壁(皮膜)が破壊されている場合があります。 この状態で乳管内にゲルが入り込むと、物理的に母乳の経路と接触する可能性があります。
ゲルが乳腺の出口付近に移動し、乳管を圧迫することがあります。 これにより母乳の排出が妨げられると、鬱滞性乳腺炎を引き起こす原因となります。
授乳中は乳頭からの細菌侵入リスクが常に存在します。 通常の乳腺炎であれば抗生物質やマッサージで改善しますが、異物(アクアフィリング)が存在する場合は状況が異なります。
侵入した細菌がゲルの表面に付着すると、バイオフィルムという膜を形成します。 この膜の中に細菌が守られるため、抗生物質の内服では菌を死滅させることが困難になります。
授乳によるホルモンバランスの変化や疲労で免疫力が低下すると、慢性的に潜んでいた菌が急激に増殖します。 これにより、突発的な腫れや高熱、痛みを引き起こす事例が多く報告されています。
感染兆候が見られる場合、あるいは将来的なリスクを回避したい場合、除去手術を検討する必要があります。 しかし、授乳期は母体と乳児の両方に配慮が必要です。
患部に熱感、発赤、強い痛みがある場合は、感染を起こしている可能性が高く、猶予はありません。 放置すると膿瘍形成や敗血症に至る危険性があるため、直ちに医療機関を受診する必要があります。
感染が確認された場合、まずは抗生物質の投与と、必要に応じて切開排膿を行います。 抗生物質の種類によっては母乳への移行があるため、一時的または恒久的な断乳が必要となります。
切開排膿や穿刺吸引はあくまで一時的な減圧処置です。 感染源であるアクアフィリングそのものが体内に残っている限り、再発を繰り返す可能性が極めて高くなります。
一般的なクリニックで行われる「生理食塩水による洗浄」や「カニューレによる吸引」には、医学的な限界があります。
皮膚の上から管を挿入して吸い出す方法では、組織の隙間に入り込んだゲルを完全に取り除くことは不可能です。 また、どこにゲルが残っているかを正確に把握できないため、取り残しが発生します。
感染を起こした周囲の組織は壊死していたり、炎症を起こしていたりします。 吸引法ではゲルの一部しか吸えず、これらの変性した組織を除去できないため、炎症の火種が残ることになります。
当院では、再発リスクを最小限に抑えるため、エコーやMRIといった画像診断機器に頼らず、外科医の目による「完全直視下除去法」を採用しています。 画像診断はあくまで影を見るものであり、実際の組織の癒着や浸潤の程度を正確に判断するには限界があるからです。
画像診断機器は有用ですが、アクアフィリングのように組織に浸透する充填剤の場合、画像上の境界線と実際の手術野での境界線が一致しないことがあります。 当院では、あえて画像に頼らず、術野での直接確認を徹底しています。
正常な脂肪組織、乳腺組織、そしてアクアフィリングが浸潤した組織を、肉眼で色や硬さを見極めながら判別します。 これにより、温存すべき組織と除去すべき組織をミリ単位で選別することが可能です。
ゲルは体内で複雑なポケット(部屋)を作って散らばっていることがあります。 直視下であれば、これらの隔壁を一つひとつ確実に開放し、奥に入り込んだゲルまで追跡して除去することができます。
| 比較項目 | 一般的なクリニック (洗浄・吸引除去) | 当院 (完全直視下除去法) |
|---|---|---|
| 除去の精度 | 不確実 管を盲目的に操作するため、組織の隙間に入り込んだゲルの取り残しが多い。 | おすすめの理由 確実性が高い
外科医が直接目で見て確認するため、浸潤したゲルや変性組織を物理的に特定し除去できる。 |
| 感染対策 | 対症療法 生理食塩水で洗うのみで、細菌が付着した被膜や壊死組織までは除去できない。 | 根本治療 感染源の除去
感染の温床となる被膜や、炎症を起こした組織ごと切除するため、再発リスクを抑えられる。 |
| 使用機器 | 画像依存 エコー等で位置を推測するが、画像の影と実際の位置にズレが生じることがある。 | 目視確認 機器に頼らない
患部を切開し、医師が直接目で見てジェルと組織を識別。入り組んだ製剤も確実に除去する。 |
アクアフィリングによるトラブルは、ある日突然悪化する傾向があります。 授乳中の方は、通常の乳腺炎と混同しやすいため、以下の症状がないか定期的に確認してください。
以下の症状が一つでも当てはまる場合は、速やかに専門医の診断を受けてください。
感染が広範囲に及ぶ前に除去を行うことで、正常な乳腺組織をより多く温存できる可能性が高まります。 特に授乳後のバストは萎縮しやすいため、組織へのダメージを最小限に抑えることが、将来的なバストの形を保つためにも重要です。